アンチエイジング物質が豊富な植物がなぜ若返りをしないの?
稲垣栄洋著『生き物が老いるということ』(中公新書ラクレ)
静岡大学大学院教授 稲垣 栄洋さんの著書『生き物が老いるということ』から抜粋し編集したPRESIDENT Onlineさんの記事を、大変興味深く面白く読ませていただきました。
人間も含めた動物と、そして静物である植物がともに「活性酸素」と「抗酸化物質」をバランスと調和よく活用していることがよくわかりました。
特に植物が外敵の病原菌などから動いて身を守ることができないために、大量の活性酸素を発生して病原菌を撃退して身を守ることや、それよりも今もっと重要な植物の活性酸素の役割は、植物の体の中の他の細胞に危機を知らせるためのシグナルのような役割をしているということです。
さらに植物は、乾燥などの環境ストレスを受けたときにも、緊急事態を知らせるシグナルとして活性酸素を利用するようになったといいます。
そのため植物は、常に活性酸素を出したり、除去したりを繰り返していて、動いて身を守れる動物と比べるとはるかに大量の活性酸素を発生して生き残るための生存競争をしているそうです。
なので、植物自身にも悪影響を及ぼす大量の活性酸素を打ち消すために、大量の抗酸化物質を産生していて、それを私たちが植物から摂取して健康と美容に役立たせていただいているわけです。
これまでも過去記事で、「体に害を与えるだけではない活性酸素の重要な役割」など色々ご紹介させていただいてきましたが、二元の物質世界に生かされている私たちは物事の一面だけ見ずに、もう一方の面にも十分に留意していきたいものだという思いを強くしました。
それでは、PRESIDENT Onlineさんの記事を下記のアドレスからご覧になり、ご参照ください。
自分自身を若返らせることはできないのに…植物が「アンチエイジング物質」を豊富に持つ驚きの理屈
それは自分の意思では動けない植物の生存戦略だった
稲垣 栄洋 静岡大学大学院教授
PRESIDENT Online 2022/07/07 10:00
https://president.jp/articles/-/58956
化粧品やサプリメントに含まれる「アンチエイジング物質」は、その多くが植物由来だ。
なぜ植物はそうした成分を持っているのか。
静岡大学大学院の稲垣栄洋教授は「それは自ら動くことのできない植物ならではの生存戦略だ」という――。
※本稿は、稲垣栄洋『生き物が老いるということ』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
■老化を防ぎ、美容を維持する「アンチエイジング物質」
老化を防ぎ、若返りを図ることを「アンチエイジング」という。
エイジング(加齢)にアンチ(対抗)しているという意味だ。
そして、そのような抗老化の効果がある物質をアンチエイジング物質という。
世の中には、さまざまなアンチエイジング物質があふれている。
テレビを見ればアンチエイジング商品のCMが繰り返し流れ、デパートやドラッグストアでも、アンチエイジングのサプリメントが、ところ狭しと並んでいる。
このアンチエイジング物質の重要な効果が、「抗酸化」である。
私たちの体は、酸素呼吸をして生命活動を行っている。
しかし酸素は、物質を酸化させて錆さびつかせてしまうものでもある。
そして、酸素呼吸を行う生命活動の中で発生する活性酸素は、さらに酸化させる能力の高い毒性の高い物質なのである。その活性酸素は、体中の細胞を傷つける。
ゆえに、病気や老化を防ぐためには、この活性酸素を取り除かなければならないのである。
この活性酸素を取り除く働きをするのが、酸化を防ぐ抗酸化物質である。
もちろん、人間の体の中にも、活性酸素を取り除く抗酸化物質は存在する。
しかし、人間の体内活動は活発で、活性酸素を取り除ききれなくなってしまう。
これが、老化やさまざまな病気の原因となっていると考えられているのである。
そこで老化を防ぎ、美容を維持するために登場したのが、「抗酸化物質」なのである。
■ビタミンやポリフェノールも抗酸化物質の一つ
抗酸化物質には、さまざまなものがある。
ビタミンCやビタミンEなどのビタミン類も、抗酸化物質である。
あるいは、ポリフェノール類と呼ばれるものや、アントシアニンやカロテノイドなども代表的な抗酸化物質である。
これらの抗酸化物質を多く含んでいるのが、植物である。
植物がビタミン類を多く含んでいることは、説明するまでもないだろう。
リンゴやミカン、緑黄色野菜などは、多くのビタミン類を含んでいる。
ポリフェノールは植物が光合成を行うときにできる物質の総称だ。植物に多く含まれる物質だ。
よくよく考えてみれば、私たちは多くの植物を食べている。
たとえば、大豆に含まれるイソフラボンや、緑茶に含まれるカテキン、そばに含まれているルチンなどもポリフェノールである。
また、アントシアニンやカロテノイドは、植物の花や果実を色づけるための色素である。
■若返り物質を持つ植物が若返りをしないという不思議
私たちがアンチエイジングのために利用している物質は、ほとんどが植物由来である。
植物は、アンチエイジング物質を豊富に持っているのだ。
しかし、不思議なことがある。
若返りの物質を豊富に持っているはずの植物でさえも、やがては衰えて枯れていく。
アンチエイジング物質を持つ植物自身は、アンチエイジングしないのだ。
それでは、どうして植物は、アンチエイジング物質を持っているのだろう?
じつは、これには植物の壮絶な戦いが関係している。
植物に襲来する病原菌は多い。
しかし植物は動くことができないから、病原菌がウヨウヨいるような環境でも逃げられない。
病原菌がやってきたら、植物はどうするのだろう。
植物病原菌の襲撃を感知すると、植物は活性酸素を大量発生させる。
活性酸素は、ありとあらゆるものを錆びつかせてしまう毒性物質である。
植物は、この活性酸素を大量に発生させて病原菌を撃退する。
おそらく、かつてこの活性酸素は攻撃力の高い武器だったのだろう。
しかし病原菌は病原菌で、植物に感染しなければ生きていくことができないから、植物の防御の対応策を進化させていく。
そのため、植物と病原菌とが進化を果たした現在では、活性酸素だけで病原菌を撃退することはできない。
それでも活性酸素の発生は、今でも植物にとって重要な役割を果たしている。
活性酸素が発生しているということは、病原菌が襲来しているということを表している。
そのため、活性酸素の発生を感じると、植物はこの緊急事態を他の細胞にも伝えていく。
つまり、活性酸素は、臨戦態勢をとる合図の役割をしているのである。
活性酸素の発生によって、植物の体は臨戦態勢を整える。まだ病原菌に侵入されていない細胞は、壁面を固くして防御力を上げる。さらに、抗菌物質を大量に生産して、病原菌との戦いに備える。
しかし、これらの対抗策は準備にやや時間がかかるという欠点がある。
もし、病原菌の侵入を許してしまったら、細胞はどうすれば良いのだろうか?
■病原菌に襲われた植物細胞は最後の手段で「自死」する
絶体絶命に陥った植物細胞の最後の手段。それは敵もろともの「自死」である。
病原菌に侵入された細胞は、次々に死滅していくのだ。どうして、そんなことをするのだろう。
病原菌の多くは生きた細胞の中でしか生存できない。
そのため、細胞が死んでしまえば、侵入した病原菌も死に絶えてしまう。
そのため、感染された細胞は、自らの命と引き換えに、植物体を守るのである。
病原菌の攻撃によって細胞が死んでしまったようにも見えるが、そうではない。
植物側の防御の仕組みとして、細胞自身が自殺をする。
この現象は「アポトーシス(プログラムされた死)」と呼ばれている。
実際には病原菌の侵入を受けた細胞ばかりでなく、周辺の健全な細胞もアポトーシスを起こす。
山火事のときに、それ以上、火が燃え広がらないように木を切り倒して食い止めることがあるが、同じように、近接する細胞を死滅させることで、病原菌の広がりを食い止めるのである。
病原菌の攻撃を受けた葉っぱに細胞が死滅した斑点が見られることがある。
しかし、実際には病気の症状ではなく、細胞が自殺して病原菌を封じ込めた跡であることも少なくない。
かくして細胞たちの激しい戦いと尊い犠牲によって、植物は病原菌から守られるのである。
■戦闘後に残された活性酸素を除去するための抗酸化物質
とにもかくにも、植物に平和が訪れた。
映画であれば感動のフィナーレ。人々は肩を抱き合って勝利を喜び合う。そして、歓喜とともに物語が終わる。
ところが、これで終わりではない。物語には続きがあるのだ。
戦い終わってみれば、植物が戦いに使用した大量の活性酸素が残されている。
活性酸素は毒性物質だから、植物に対しても悪影響を及ぼす。
戦いが終わった後に不発弾や地雷の撤去が必要なように、この活性酸素を取り除かなければ真の平和は訪れないのだ。
そこで、登場するのが、ポリフェノールやビタミン類など植物が持つ抗酸化物質である。
植物は、活性酸素を効率良く除去するためのさまざまな抗酸化物質を持っているのだ。
それだけではない。
活性酸素は、今や防衛の武器というよりも、植物の体の中の細胞に危機を知らせるためのシグナルのような役割をしている。
植物のまわりにはさまざまな雑菌がウヨウヨしている。日々、病原菌の攻撃を受け続けている。
さらに植物は、乾燥などの環境ストレスを受けたときにも、緊急事態を知らせるシグナルとして活性酸素を利用するようになった。
そのため植物は、常に活性酸素を出したり、除去したりを繰り返しているのだ。
もちろん、私たち人間の体も、活性酸素の発生と除去のシステムを持っている。
しかし、人間や動物は過ごしやすい場所を選んで動くことができるのに対して、植物は動くことができないから、そこが生存に適さない場所でも逃げられない。
常に環境ストレスに耐え続けなければならないのだ。
そのため植物は、動物よりも頻繁に活性酸素を発生させては、除去することを繰り返している。
そして、抗酸化物質を充実させているのである。
私たちが利用する抗酸化物質の多くが植物由来なのは、そのためなのである。
■抗酸化物質は不老の薬ではない
人間の細胞もまた、ストレスや紫外線などを感知すると、自ら活性酸素を発生させる。
そして、その活性酸素は、細胞を傷つけ、さまざまな症状を引き起こす。
長く生きていれば、細胞も劣化が進んでしまうだろう。
そんな活性酸素を除去するために、植物の抗酸化物質が効果を発揮するのだ。
植物は、豊富なアンチエイジング物質を持っている。
しかし、不思議なことに、植物は老化する。
美しい花も、やがて萎れ、生き生きとした葉もやがて枯れていく。
植物にとって抗酸化物質は、アンチエイジングのためのものではなく、病原菌や環境ストレスから身を守るための物質に過ぎないのである。
もっとも、よくよく考えてみれば、私たち人間にとっても、抗酸化物質でアンチエイジングすることはできない。
もしかすると、抗酸化物質は、肌をピチピチに保ち、「肌の老化」を抑制するかもしれないが、それでも体は老化していく。
アンチエイジング物質をどんなに摂取しても、老化を止めることはできない。
どんなに見た目が若々しく維持できたとしても、体は確実に老いていくのだ。
抗酸化物質は、不老の薬ではない。
「アンチエイジング物質」とは呼ばれていても、抗酸化物質で老化を止めることはできない。
抗酸化物質ができるのは、病気になるリスクを減らし、健康に老化を進めることだけなのだ。
植物にとっても、それは同じである。
植物のアンチエイジング物質は、けっして老化しないための物質ではない。
植物にとって、それは生きていくための物質である。
そして、植物もまた、大量の抗酸化物質を持ったまま、静かに老いていくのである。
稲垣 栄洋(いながき・ひでひろ)
静岡大学大学院教授
静岡県出身。岡山大学大学院農学研究科修了。博士(農学)。農林水産省、静岡県農林技術研究所等での勤務を経て現職。著書に『弱者の戦略』(新潮選書)、『生き物の死にざま』(草思社)、『はずれ者が進化をつくる』(ちくまプリマー新書)などがある。
<この著者の他の記事> 魚や虫は卵を産むとすぐに力尽きるが…人間の女性に「閉経後の長い寿命」が残されている生物学的理由
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